彼女の幸せ
- 2020.06.09
- 小話
目次
かの国
私の人生は、これで本当に幸せであったのでしょうか?
薄い窓ガラスの先にある冷たい夜空には、星の瞬きなど見えていなかった。
それよりも、数十年前に国へ残した両親や弟たちの面影が、彼女の瞼に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。
ガラスに反射している頭上にあるオレンジ色の電球は、何度と光を歪ませていただろう。
何度と?・・・そんなことすら、もう彼女は考えるのをやめていた。
今では家族を持ち、当たり前のように毎日を暮らしている。
あの時以来は、家族は減るどころか増え続けている。
亭主が就寝前の暖かいミルクを持ってきてくれた。
そう、私は何とか幸せに暮らせているのだと、両手から伝わる温もりから自分を納得させていた。
再び彼女は薄いガラス窓の先を見つめた。
雲の切れ間から、ぼんやりと真円に近い黄色い月が顔を覘かせる。
「私は元気で幸せに暮らしています」
彼女はそう心の中で呟くと、いつもより軽やかに寝支度にはいった。
彼女は、近くもあり遠い国で、自分の父親が亡くなったことを知らない。
-
前の記事
新型コロナウイルス感染症 2020.06.08
-
次の記事
2020 エプソムカップ(G3)の複勝率を公開!!【結果】 2020.06.14