彼女の幸せ

彼女の幸せ
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かの国

私の人生は、これで本当に幸せであったのでしょうか?

 

薄い窓ガラスの先にある冷たい夜空には、星の瞬きなど見えていなかった。

それよりも、数十年前に国へ残した両親や弟たちの面影が、彼女の瞼に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。

ガラスに反射している頭上にあるオレンジ色の電球は、何度と光を歪ませていただろう。

何度と?・・・そんなことすら、もう彼女は考えるのをやめていた。

 

今では家族を持ち、当たり前のように毎日を暮らしている。

あの時以来は、家族は減るどころか増え続けている。

亭主が就寝前の暖かいミルクを持ってきてくれた。

そう、私は何とか幸せに暮らせているのだと、両手から伝わる温もりから自分を納得させていた。

 

再び彼女は薄いガラス窓の先を見つめた。

雲の切れ間から、ぼんやりと真円に近い黄色い月が顔を覘かせる。

「私は元気で幸せに暮らしています」

彼女はそう心の中で呟くと、いつもより軽やかに寝支度にはいった。

 

彼女は、近くもあり遠い国で、自分の父親が亡くなったことを知らない。