ゆうよとよゆう

ゆうよとよゆう

ゆうよとよゆう

「一刻の猶予もない」という言葉がある。

時折この言葉を耳にすることがあるが、そのたびに、あのバカ教師のことを思い出す。

 

私が通っていた中学校には、良い教師も居たが、ろくでもない教師も多々居た。

まるで暴力団の構成員のような風貌、言葉遣い、女生徒でも暴力をふるった国語教師。

自分の手のひらをベロリと舐め上げて、生徒の顔になすりつける女性音楽教師。

高校受験に集中したいと申し出た男子バレー部員を、放送室で暴行し前歯を折った(お咎め無し)バレー部顧問でもあった体育教師。

まだまだ問題教師はたくさん居たが、今回はこの体育教師のエピソード。

 

この体育教師、年齢は恐らく当時で20代後半くらいだったのか。

浅黒く、ヒラメのような顔をしていたその体育教師は、男子生徒に対してと、女子生徒に対してとで、全く態度が違う絵に描いたような女好きなスケベな男だった。

とある日の、授業間の休み時間に、私はある女生徒と教室で話をしていた。

紀「そんなんじゃ一刻の猶予(ゆうよ)もないよね。」

女生徒「え?ゆうよ?余裕(よゆう)じゃないの?ゆうよなんて言葉なんか無いよね。」

紀「いやいや、猶予って言葉はあるよ。一刻の猶予もないって使うでしょ。」

女生徒「聞いたことない。余裕は使うけど、ゆうよなんて聞いたこともないよ(笑)」

 

この女生徒、「猶予」という言葉の存在を知らなかったのだろう。

まるで私が間違った言葉を使っているのを小バカにするように笑っていた。

イラッとしたが、その女生徒に密かに想いを寄せていた私に、それ以上強く反論する厳しさは出せなかった。

それよりも、その場で辞書を開いて見せてあげられるほど、当時の私には機転も無かった。

 

と、そこにひょっこりと現れたのが、例の体育教師である。

女生徒「あ、先生!紀くんがね、ゆうよって言葉があるなんて言っているんだけど無いよね?よゆうの間違えだよね?」

私はこの時、自分が間違っていないことを証明してくれる「大人」が現れたと期待した。

が、この体育教師が私に向かって放った言葉は以下である。

 

体育教師「あ?ゆうよなんて言葉なんかねぇよ、バカ。」

 

眉を上げ、額のシワを何本も増やし、不愉快な薄ら笑いを浮かべ、鼻の下を伸ばしたスケベったらしい面。

その時の体育教師の表情は今も忘れはしない。

体育教師と意気投合して女生徒は、喜々としながら私の間違いを笑っていた。

 

その女生徒に恋心を抱いていたからなのか、余計に腹が立ったのを強く記憶している。

若い女子生徒の言葉知らずは、別に恋心で割引しなくても許せるが、この体育教師は普段の素行の件もあり、未だに「猶予」という言葉を耳にすると、このエピソードを思い出してしまう。

 

おい体育教師、バカはお前の方だ。