紀 聡似

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シャンプー台での受難

 美容室の利用頻度は、私の場合は三か月に一度のペースで通っています。  美容室での「おもてなし」時間は日常生活ではなかなか味わえません。  横になっていれば丹念に頭を洗ってもらえます。終わって着席すれば髪を […]

ご遠慮の作法

「じゃんけんで勝った方が選べるんだよ」  二つ上の姉が言った。  近所に用事ができ、ちょっとそこまで母親が出掛けたときのことである。  台所に置いてある細長い缶に入ったオレンジジュースと桃のジュースの二本。 […]

暗闇を突っ切る勇気

 冬のように寒さがこたえる季節に重宝する食べ物といえば鍋である。  食卓にガスコンロを置き、そこで煮炊きをすれば部屋の中も身体も温まる。そうやって厳しい寒さに、ちょっとした楽しみを加えて冬を越してゆく。   […]

往時の商店街

 昨今ではスーパーマーケットやショッピングモールの展開で、買い物も効率的で便利になっている。  最近めっきり減ってしまったが、ひと昔前では各町にそれぞれ商店街があって、肉屋に八百屋、金物屋から雑貨屋まで、個 […]

茂木さん事件

 我が家では、夏のお盆期間に二泊三日だけ海水浴の旅行へ行くことが恒例行事であった。  父の夏休みはその三日間だけなので、初日はだいたい午前三時ごろに車で出発し、朝の七時ごろには現地に到着しているのが通例だっ […]

銭湯余話

 生まれてから十歳までの間、我が家は風呂無しアパートに住んでいたために銭湯通いだった。  今さらながら銭湯通いは面倒だっただろうなと思えてしまうが、生まれてこのかたそれが当たり前だったので、当時の私は何とも […]

正月の一齣

 不思議と昔から父の実家のことを「おばあちゃんち」と呼んでいた。祖父もまだ健在のときからである。  確かに幼少の頃から父の実家へ行くと、いつも祖母が遊び相手や話相手になってくれていたし、お小遣いをくれたり、 […]

北斎の隣人

   富次郎は仕事の手がしばらくのあいだ止まっていた。  その心は、自宅の隣に越してきた親子連れのことが頭にあったからだ。  富次郎の住まいは本所界隈にある裏長屋で、独り身の若者である。 「ちょい […]

異質な恋心

異質な恋心   尾澤こう。  この人物に泰臣が妙な興味を持ちだしたのは、ちょっとしたことが始まりだった。それは彼が実家に帰った際のこと。父が祖母の遺産整理に要した、先祖や親戚数々の戸籍謄本に目を通していたと […]

焦爛の芍薬 最終話 ~自白~

 ~~ 離郷 ~~  ちょうど一年前の、こんな秋のことだった。  この屋敷で誠司の日記帳を探し出し、真希は美由紀と多江と夜中まで色々と会話をした。  真希は最初は謎解きのような気持ちで半分いたが、美由紀と多 […]

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